グローバリゼーションと社会保障と労働者

国際貿易センターという、途上国の中小企業の輸出を技術的な面から支援する国際機関があるのだが、そこの事務局長を2013年から務めるアランチャ・ゴンザレスさんという女性がいる。

この人が、11月7日に世界経済フォーラムのサイトに興味深い記事(Globalization is worth saving. Here’s how to do it)を書いていた。

グローバルな貿易は、世界の最貧困の人々の暮らしを改善するためにも、人々が能力を発揮するためにも必要で、価値あるものだ。ただ、それにより発展から取り残される人やコミュニティのケアをしなければ、社会にうっぷんがたまり、不安定化し、ポピュリストのデマが横行するようになってしまう、というのだ。

1989年の後、グローバリゼーションが最高に持て囃されたあの時期に、政治とビジネスのトップエリートたちは、そこから取り残される人々の不安を軽視してしまった。

国内の政策によって調整すべきだったのに怠り、逆に富裕層の税を軽減したり、労働市場も放置し、労組は弱体化した結果、中産階級の将来が危うくなってしまった。それが、極右政党があちこちで台頭するような社会不安を招いているというわけだ。

それでは今後どうしたらいいのかというと、政府がより積極的に労働市場に関与することと、失業時の社会保障を強化すること、この二方面を一体として進める必要があるという。そして政府が人的資本に投資することが必要だ。つまり教育や職業訓練といったことだ。

彼女は中小企業の輸出振興のための組織のトップだから、そちらの方面のアピールももちろんしている。大企業だけでなく、中小企業もグローバルな取引に参加しやすくしなければいけないと。

しかし私が特に興味をひかれたのは、グローバリゼーションを推進しようという立場の人が、国内の社会保障の強化や、労働者の立場をより強くしようと主張している部分である。グローバリゼーションと、社会保障や労働政策というのは、いままでは対立するものとして考えられてきた。

でも本来、それらはともに進められなければならない。グローバリゼーションと社会保障と労働者の立場とが、バランスが取れて初めて、すべての人に技術進歩とグローバル貿易の恩恵がいきわたり、すべての人の暮らしが良くなったり安定したりして、ようやく社会は安定する。社会の安定なしには、富裕層も、ビジネスエリートも、幸福かつ活き活きと暮らすことはできないのだ。