人民元売りは中国売りか

今年1月、ダボス会議で行われたブルームバーグのインタビューに対し、著名投資家ジョージ・ソロス氏が「中国経済のハードランディングは不可避」と発言し、同時にアジア通貨の売りも宣言したそうです。

この発言に中国の新聞は猛反発し「中国を空売りする者は必ず敗れる」などと、一斉に反応したとのことです。
参考:ジョージ・ソロス氏に「経済のハードランディング」を指摘され、逆ギレした中国の狂乱ぶり…

確かに、最近、様々なメディアで、中国の債務比率が拡大しているという警告が報道されたり、実際に中国重工業セクターの企業がいくつも債務不履行に陥るなど、中国経済には暗雲がたちこめているようです。

ジョージ・ソロス氏は、1992年のポンド暴落や、1998年のアジア危機をしかけた人物としても有名で、経済危機予測に関しては一目置かれています。

とはいえ、こうした予言は、当たれば人々の記憶に残りますが、当たらなければ記憶に残らないものです。

たとえば、ソロスひきいるヘッジファンドが2011年12月にイタリアの国債を大量に購入した直後、イタリア国債の利回りは下がり始め、2013年に4%台に落ち着きました。その年の5月にソロスは「過去数カ月にわたってイタリア国債利回りを押し下げていた市場の回復局面は長く続かない」と話しました。ところが2014年になると利回りは急降下、10年ものの国債利回りは、現在は1.535%になっています。

ソロスの予言といえども、当たり前のことではありますが、100%当たるわけではないということです。

中国の場合、他の先進国と異なり、一党独裁の社会主義国家であり、これまでの経済学の常識が効かないという話もあります。

それに、そもそも1992年にポンドが暴落したあと、イギリス経済はひどいことになったでしょうか。それどころか、1990年から2006年の間に、国民一人当たりの所得水準は、大幅に上昇しました。各国を比較した2015年のデータでも、日本よりもはるかに上位に位置しています。
参考:世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング

ソロスは1998年のアジア通貨危機を見通していたわけですが、アジア地域の経済は、むしろ、通貨危機の後に好況を迎えました。

つまり「通貨売り」イコール「その国売り」とは言えないのです。

中国はインフラ投資だけでなく、研究開発や教育への投資も非常に積極的です。今後は破壊的イノベーションが、中国から生まれる可能性は高いでしょう。

アメリカの経済学者タイラー・コーエンもこれに関しては「中国も人件費が高くなってきて、製造業の雇用がこれ以上アメリカから中国に流出することはないし、中国人の技術開発もすごいから、今後は中国人が新しくてすごいものをどんどん発明して、アメリカ人も恩恵を受けられるかも知れない」と楽天的です。
参考:Why There’s Hope for the Middle Class (With Help From China)

マクロ的にはあまり悲観的にならなくて良いようにも思いますが、かといって、個々にはそれなりに危機は起こるでしょう。それらに対して中国当局がどうコントロールしていくのかが見ものです。

 

中国はバブルなのか、それとも。。。

4月20日のウォールストリートジャーナル社説で、中国企業のデフォルトがたてつづいて起こっていることが報道されました。

去年の2015年6月、中国株式市場が大きく落ち込んだことは、まだ記憶に鮮明です。それ以降、株はリスクが大きいということで、投資家の多くが、より安全と思われる社債の市場になだれ込んだそうです。

中国で社債が安全に思われているのは、債務不履行になる前に、中央か地方政府が支援すると信じられてきたからです。ところが中央政府はいま、返済資金の調達を銀行融資に頼っている「ゾンビ企業」を退場させると公言しているそうです。

そして、大連の東北特殊鋼集団は3月末、約140億円の債務不履行に陥りました。さらに、国有企業を統括する国務院国有資産監督管理委員会(国資委、SASAC)によって管理されていた中煤集団山西華昱能源という会社もまた、3月6日にデフォルトに陥りました。これらは「ゾンビ企業を一掃する」という政府の決意が示された出来事といえます。

一方、こうした政府の対応は十分なものではなく、中国はバブル崩壊へ向かってまっしぐらに進んでいると見る意見もよく見られます。

さてどうでしょうか。

中国政府は、WSJの記事によると「不動産デベロッパーに気前よく融資するよう銀行に促し、国有企業などに道路や空港を新設するよう後押しした。」とのことですが、これは興味深いことです。

銀行が貸し出すときに、お金は創られます。そうして創られたお金が、債務不履行になって、返済の必要がなくなると、社会全体でみると、お金の量は増えます。(ただ、債務不履行になる場合、債務当事者にとっては大変なことですが。。。)なお、返済された瞬間に、貸出によって創り出された分のお金は消滅してしまいます。

中国は、最近、「一帯一路」という、現代版シルクロード的な構想を打ち出しています。中国からヨーロッパまでの途中のインフラを整備し、貧困国を巻き込んで貿易と経済を活性化しようという試みですが、債務でお金を創り出したあと、金融の秩序を破壊しない程度に債務放棄しながら、近隣にばら撒いていくと、結果的に中国の政策は、貧しい国々を豊かにすることができるかもしれません。

ハラハラしながらも注目していきたいところです。